2013年7月19日金曜日

VVG Something [好様本事]

アスファルトから立ち昇る熱気を感じながら、僕は台北の街を歩く。


すれ違う人々は皆、同じような顔なのに違う言葉を話している。

異国の地で聞く、異国の言葉は刺激的だ。

黒い髪に黒い目の女の子がこっちを見る。
一瞬、目が合う。

違う歴史、違う文化を背景に持つ僕ら。
同じ地球の上にいて、違う世界を見ているんだなって、そんなことを考えた。

忠孝敦化駅で降りて五分くらい。
アパレルのお店や、カフェが並ぶ静かな路地裏にその店はあった。

住所が書いてある名刺を持って、僕はしばらくその辺りを歩いた。
ありそうな予感だけはずっとあったけれど、少し迷ってしまった。


赤いドアをスライドさせて中に入る。

目に優しい、自然なライティングで店内は心地よい明るさだ。

「いらっしゃいませ。」だなんて言われない。
それなのに、どこかで親しみを込めたhospitalityを感じる。
そんな雰囲気に、すぐに心がほぐれていくのを感じる。

真ん中にすごく長いテーブルが置いてあって、その上に本が平積みにされている。
その多くが日本語の本で、いくつかは見たことがある本だった。

お店の大きさは10坪くらい。
本当に小さなスペースに所狭しと、本や雑貨が並べられている。


僕は適当に目についた本を手に取って眺めたり、雑貨を見て回ったりした。

そのうちに、この空間にもう少し長く居たくなる。
スタッフのお姉さんに、「Can I have a cappuccino ?」と告げる。

簡単な北京語くらい勉強すればよかったかもしれない。
英語は通じるけれど、なんとなくそんなことを考える。


奥にある小さなスペースに椅子が三脚ある。
僕は「世界で最も美しい書店」という本を手に取って、その内の一つに座る。

その本に、ここVVG Something [好様本事]も載っていた。

カプチーノがきて、一口飲む。
時間がさらにゆっくりと進むような気がした。


そして、その時間は僕に一つのことを教えてくれた。

それは、「人生において大切な何か」だった。

例えるならそれは、古いオルゴールが奏でる懐かしいメロディのようなもの。
あるいは、真緑に映える木々の葉の間をすり抜ける夏の風のようなもの。

それは食欲も性欲も睡眠欲も満たしてはくれない。
でも、一番満たしてほしかった心の渇きを満たしてくれる。

台北で出会った小さな書店がくれた時間で、僕はその「何か」の存在と大切さを学んだ。

どのくらいの時間そこにいたんだろう。
今となってはわからないけれど、とにかくゆっくりとした時間を過ごした気がする。


そうして僕はしばらくのまとまった時間を過ごした。
カプチーノの器の底は、とっくの昔に見えていた。

そろそろ行かなくちゃ。
少しの名残惜しさを胸に、お姉さんに挨拶をする。

もう一度、赤いドアをスライドさせて外に出る。

台北は夕暮れに近づこうとしていた。
街の匂いはなぜか、僕をノスタルジックな気分にさせる。

谢谢、VVG Something [好様本事]。
心の中で、そう唱えた。

またいつか、会いましょう。
再见。


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